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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)146号 判決 1954年3月11日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士田中徳一の上告理由第一点について。

上告人が大正一三年一〇月一日本件建物を借受け同年同月二七日借家権及び造作代名義で一四、〇〇〇円、昭和二年一二月五日及び同年同月一九日の二回に造作権利増金名義で各一、二五〇円宛計二、五〇〇円を被上告人の前主に交付したこと並びに上告人がその後昭和一六年七月一八日まで十数年間本件建物を賃借使用したことは、原判決が適法に確定したところである。従つて、右金員が原判決の認定したように、本件賃貸借の設定によつて賃借人の享有すべき建物の場所、営業設備等有形無形の利益に対して支払われる対価の性質を有するものである限り、上告人が前述のように既に十数年間も本件建物を賃借使用した以上は、格段な特約が認められない本件では、賃貸借が終了しても右金員の返還を受け得べきものでないこというまでもないものといわなければならない。それ故所論第一点の第一は採用し難い。また、同第二の寄託であるとの主張並びに同第三の代金であるとの主張は、既に原判決が適格なる証拠又は明認すべき資料なしとして排斥したところであり、同第二、第三の論旨は、結局原判決の認定を非難するか又は原判決の認定に副わない事実関係を前提とする法令違反の主張に帰し、いずれも上告適法の理由として採用することはできない。

同第六点について。

借家法五条にいわゆる造作とは、建物に附加せられた物件で、賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるものを云い、賃借人がその建物を特殊の目的に使用するため、特に附加した設備の如きを含まないと解すべきであつて、これと同趣旨に出でた原判示は正当であり、論旨は異る見解の下に原判決の事実認定を非難するものであつて、採用することはできない。

同第三点乃至第五点(同第二点は存在しない)について。

同第三点は、原審が適法になした事実の認定並びに理由の判示を非難するに過ぎないものであり、同第四点は、前点を前提とする単なる法令違反の主張であり、同第五点は、原審の認定しない事実を前提とする法令違反の主張であつて、すべて、最高裁判所における民事上告特例法一号乃至三号のいずれにも該当しないし、また、同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものとも認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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